ブルージャイアント見て来た

2023/03/20

ブルージャイアント見て来た。映画としては、良く
できていて、ある時代のジャズを素材に、脚本も、
音楽も、映像も楽しめた。

いろいろな人が好意的な批評をしているが、僕は
ジャズの歴史的観点から少しばかり辛口な感想を。

仙台でジャズに覚めて、アドリブを河原で何年も
吹き続けて上達したという宮本大くん、数年前
に鬼籍に入ったサックス奏者、宮本大路に名前
が似ていて、原作者は大路を思い浮かべて居た
のではと思った。

大路は、テナーからバリトンにメイン楽器を
変更、ユニークで、個性的な奏者で、特に
ユーモアのセンスのある日本人には珍しい才能
だった。大好きな奏者だった。

田舎でジャズに目覚め、テナーでジャズを目指す
高校生というと、実は、僕もそうだったのだ。
田舎にいると、昔は、東京から来るミュージ
シャンの演奏を生で聞くか、レコードと、
ラジオしかなかったので、考えると偏った
ものになる。
50年前というと、東京ではコルトレーン、
マッコイタイナー系のサウンドが流行って
いて、これは世界的にそうだった気がする。
時代は、ベトナム戦争で、ヒッピームーブ
メント、日本は高度経済成長期の頂点へ向
かっていた。

ビーバップと呼ばれる、パーカー、
ガレスピーのジャズは、コードを極限まで
細分化してスイングして、アドリブすると
いうものだったが、しばらくすると限界が
きて、マンネリに陥り、それを打ち破るの
が、マイルスが始めたモード(音階)で、
アドリブするというやり方だった。

このモードから、ジャズに入った人は、
ビーバップ(コードを細分化するやり方)
が、下手な場合が多い(笑)。

僕は、コルトレーンのあとロリンズの
コピー(レコードの音を聞き取り譜面化
して練習)をかなりやったので、ビー
バップは、染み着いている。コルトレーン
も、途中まではモード的やり方をさらに
推し進めていたわけで、宮本大の演奏は、
その路線で行っているようだ。

実際はニューヨークで、活躍する馬場くん
というテナーが、吹いているようだか、
でもスマホを駆使しているので現代な気
もするし、少し時代設定が疑問(笑)。

宮本大のフレーズや、リズムはかなり
カッコいいので流石と思うが、音色が
無骨で、荒々しく、言ってみれば素人
っぽく、洗練はされていない。あえて
そういう若者らしい音を狙って作った
とすれば、流石であるのだけど。

プロダクションノートを読むと、
リーダーの上原ひろみが、もっと
下手に、もっと若者らしく激情的に
と指示を出し、うまく吹かないよう
に設定していた。やはりね??(笑)

また、大くんが、ジャズは、感情の表現
だと自身の音楽哲学を披露するシーンが
あるが、いかにも若者らしいともいえるし、
あの時代の考え方ともいえる。
音楽は理知的に構築する側面もあるのだ。

ジャズには、もっとオシャレな表現や
ユーモアに溢れて楽しくなるようなもの
や、ロックやR&Bに接近したものや、
ビッグバンドや、ジャズボーカルなど
いろいろな楽しみ方がある。

サックスの音にしても、もっと優しい
音や、感情をもっと抑制したり歌うような
表現も有るので、今までジャズに縁の
なかった人たちが、この映画で情熱は
あるが、偏った知識しか持たない田舎
ものの青年の無骨な音が、これがジャズ
のサックスの音だと誤解されないよう
望みたい。

ジャズは個性の音楽で、特にサックス
奏者は、聞いた瞬間に、あ、この人
とわかる個性がある人が世に出る。

コルトレーン、ショーター、ゲッツ、
渡辺貞夫と言ったら、すぐさまその
個性的な音が浮かぶだろう。

どうやってユニークな個性を作るの
かといえば、楽器の設定でもあるし、
その人独自の奏法でもある。

誰それそっくりで褒められるのは
アマチュアの世界であり、プロの
世界では個性こそ尊重される。

スタンダードを有名奏者と同じキー
同じコード進行でやるのは日本人、
向こうでは、コード進行やキーも何
とか独自性を出そうと考える。

歌い手でも、ミーシャ、アレサフラン
クリン、チャカカーン、ビリー
ホリディと言ったらすぐさまその
個性あふれる歌声が浮かぶのと同じで
ある。

河原で、世界一のジャズプレーヤーを
目指して何年も練習したからといって
才能が出てくると言うのは少し設定
に無理があると、最初は思ったのだが。

だいたい音楽に順位を付ける発想も、
日本人的である。どれだけ、今まで
世界になかった、ユニークさ、個性を
作り上げるかと言う発想も欲しい
ところだ。

と言うのは、ジャズがうまくなるに
は、実際はうまい人とやってリズム感
や、音楽性を、吸収したり、強力な
ライバルと競い合ったり、お客様に
励まされたりしながら、切磋琢磨が、
王道なので、この物語は、それを上手
く繋いで見せているとは、いえるだろう。

怪我をしてもコンサートに出るとことは、
アメリカの最悪のスパルタ式ジャズ映画
(笑)Lesson にも似ているが、指や手
に障害のあるピアニストで素晴らしい
人は、例えば右手が3本の指しかない
ホレスパーランや、片手、両足をバイク
事故で複雑骨折しても見事に復活して
世界的活躍をしたフルートの神、
ジェームスゴールウェイなどを思い出す。

お涙頂戴と音楽の素晴らしさは関係
はない。

確かに才能のあるピアニストと切磋
琢磨は、さもあり南無だが、ド素人
のドラマーが数ヶ月や1年であそこまで
行くのも有ったら凄いが、実際はもっと
かかるのでは?

まあ、映画ということで(笑)。

ブルーノートと思われる日本最高峰
の店のオーナーや、大を半年だけ教えた
という葉巻をくゆらす、サックス教師
などが必要以上に威厳を持って登場する
のが面白い。

実際の彼らは架空の存在で、実像は
かなり違うのは、想像に難くない。

コルトレーンのImpressins なども劇中
に挟まれ、上原ひろみの音楽も素晴
らしい。音楽とアニメが良く合って
いるのは、先に演奏をして、撮影した
絵を元にアニメを作っているのでは
ないか?

プロダクションノートを読むと、
やはり演奏動画を撮影して、3Dモーション
キャプチャーなどの技術を駆使して
制作されていた。

ものすごい手間が、想像されるが、
イマジネーションに溢れた凄い映像
が付いているので、次回は、ディテール
に注目しながら味わって見てみたい。

成功すると何十億という興行収入の映画
業界、少しでも音楽関係者や、製作者に
還元されるといいのだが。

日本のジャズ映画というと、古くは、
レフトアローン、そしてスイング
ガールズ。それに続くブルー
ジャアイント、扱っているジャズが少し
オールドスタイルだけど、少しでも日本
にも根付いているジャズの文化に、
興味を持ったり、好きになる人が増える
といいな。