fabulous インプロビゼーションブック

2020/02/19

今日は、菊地康正の新作アルバムfabulousのソロをすべて書き取った楽譜集「fabulous improvisation book」の巻頭言が上手く書き上がったので公開します。

★★★★★★★★

fabulous improvisation book 刊行に当たって

CDのライナーにも書きましたが、このアルバムとこの本は、菊地道場師範代の片岡健二の発案でした。

僕もたくさん要望を出しましたが、素晴らしい彼の音源作り、そしてレコーディングの実力が無かったらこのアルバムとこの本は実現していませんでした。

ジャケット写真や、レコードタイトルのアイデア、録音のアシスタントと協力してくれた、Ineko さん共々、深く感謝するとともに、一緒に仕事できたことを誇りに思っています。

このアルバムは、現時点での、私のインプロヴィゼーションの到達点でもあり、サックス奏者として、アーティストとしての作品でもあり、1992年の Play the sax に始まる、ジャズサックス教則シリーズの集大成にもなりました。

片岡に言わせると、師匠の遺言を残して置きたかったとなりますが、まだまだ早々に、この世から立ち去る気は無いので悪しからず。

ドイツ人のジャズ評論家ヨアヒムベーレントは、ジャズを歴史的に深く考察しています。

ニューオリンズのいかがわしい場所から始まったジャズは、カンザスを越えてニューヨークへ渡り、つまりミュージシャンが移動していったわけですが、偉大なトランペッターにして歌手、ルイアームストロングが牽引していた時代の後、大恐慌時代は、ビッグバンドによるスイングジャズが興隆、ベニーグッドマンなどクラリネットの時代から、サックスの時代へと変遷していきます。

サックスにおける、ジャズのフレージング及び奏法の2大源流は、コールマンホーキンズと、レスターヤングと言われています。

かなり大雑把に言えば、ホーキンスは、男性的な太いトーンでコードアルペジオのスタイル、レスターは、ソフトなトーンで、スケールとガイドトーンによるフレージングまた、元ドラマーということもあり、リズムのノリを絶妙に歌うフレージングにも特徴があります。

その後、パーカーを経て、モダンジャズの世界へと繋がっていくわけですが、我々後世のジャズ奏者が学んでいる、コード、スケール、ガイドトーンラインなるものは、こういった先人が、学校でシステム的に学んだのではなく、実際の演奏の現場で工夫や苦労を重ねて編み出した結果の遺産であることを十分自覚したいものです。

さて、即興演奏というのは、その場のその場の、瞬間の作曲であると言えますが、デタラメにやっているわけではもちろんなく、転調や流れている流れているコードを耳で認識して、有機的に、立体的に、メロディを紡ぎ出して行くわけです。

その時にやはり、演劇、ドラマや映画のように、やはり、ストーリー性が無いと、つまらないものになってしまう。

この本の利用の仕方として、徹底的にさらって、とりあえず丸暗記して、見なくても吹けるようにしてしまう、また、個々ののフレーズを抜き出して、これは、だれそれに似ているなと分析したり、気に入ったフレーズをいろいろなキーで練習してストックするなども、もちろん有りですが、ソロの流れを、是非分析してみることをお勧めします。

やり方は、鉛筆で、音を聞きながら、ブレスしてから、次のブレスまでを1フレーズと考えて、旋律線を引いてみる。

旋律線は、前のフレーズを何回模倣しているか?

また、1本の旋律線は、上行しているのか下降しているのか?

もちろん1本の旋律線の中でも細かく上行下降を繰り返すのですが、始まりの音と終わりの音に注目すると、その旋律線はどちらへ向かっているのか、が分かります。

初心者や中級者の方で、ソロにストーリー性の無い方は、1つの旋律線の始まりと終わりがほぼ同じ音だったりすることが多いです。聞いている人から見ると、色々やっているけど、結局どこへも連れていってもらえなかったという、焦燥感、無力感が残ります。

例えば、↑上行、↑上行、↓下降、↑上行、↓下降、↓下降、↑上行、↓下降などのように、旋律線を配置すれば、全体としては、山あり谷ありだが、全体としては、山に向かい(クライマックス、緊張)、そして下山(リラックス、弛緩、安堵)したという、聞き応えのあるソロになるでしょう。

ジャズ即興演奏に関する基本的な知識は、拙著や世に出ているいろいろな情報で学べると思うが、こういったソロ全体を構成する方法、そしてそれを実例で示したものは少ないと思うので、是非そういった視点で、この本で研鑽を積み、コード、スケール、ガイドトーン、ジャズフレーズを学ぶ他に、ストーリー性のあるソロを構成するやり方を学んでください。

ストーリー性のあるソロを構築できる音楽家が、日本にもどんどん増えて欲しい、そのために本書を活用して欲しいと願っています。

狭い意味では、ライバル(商売仇)が増えることになりますが、ジャズ界音楽界のレベルが上がれば、裾野も広がります。

★技術的な補足

サックスでジャズ的に聞かせるには、ジャズタンギングが必須です。その基本は裏打ちにあり、8個の八分音符が並んでいる場合、タタラタ、ラタラタが基本です。タはタンギング、ラはタンギングなしでスラーで次の音へ移行することを意味しています。この本では、可能な限り、細かくタンギングを含むアーティキュレーションを聞き取り
記入しました。詳しくは、拙著Play the Alto,Play the Tenor シリーズに詳説しているので参考にしてください。

ジャズの命はスイングです。いくら正確に指が回ってもスイングしていなければ何の魅力も発散できません。スイングするには、リズムに合わせて歩いたり、2,4拍で手を打ったりして、リズム感を鍛えましょう。

移動読みでも固定読みでも構わないので、スキャットで、音源と一緒に声を出して歌いましょう。理屈は分からなくても、メロディをアドリブを同じ音程で歌えたら、もうそのソロは体に入ったも同然です。理屈は後からわかってきます。

この本の楽譜を作成して感じたのは、歌えるし、吹けるけど、楽譜に記入するにはどうしたら良いか分からないフレーズが結構多かったことです。音の高さよりリズムを書き取る難しさを痛感しました。フレーズは目より耳を優先して、聞こえた通りに覚えたほうが早いです。

2020年2月  
                                                                                      菊地康正


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